知識と経験

夕食後、嫁さんが「頭が痛い」と言って横になっていた。

ぼーっと眺めていたら胸椎の真ん中あたりに違和感を感じたので、そこに指圧のような(単なる指圧ではない)手技を施したら、すぐに頭痛は消えた。患者さんであればちゃんと全身の検査をしてから治療をするのだが、身内だとこんなものである。

「どうなってたん?」と聞かれても、考えられるパターンはいくつかあるが、ちゃんと検査していないからわからない。見た感じ明らかに呼吸が大きくなってるし、本人も呼吸が楽になったと言っていたので、「酸欠やったんちゃう」と言ったら納得してた。身内だとこんなものである。

なぜ私は胸椎に治療を行ったのか?別に私は霊感があるとか、超能力があるとか、神様の声が聞こえるとか、そんなことは全くない。

おそらく、経験から来るパターン認識とか、マイケル・ポランニーの言う「暗黙知」といったようなものだろう。要するに、我々の知覚の中で、言語で表現することができない部分の認識のことである。我々が意識していなくても、脳はちゃんと整理して収納し、必要なときに取り出してくれるのである。

私がオステオパシーの勉強を始めた当初、経験豊富な先輩の中には「理屈なんてどうでもいいんだよ、治ればいいんだ」という人が多かった。私はそれに反対であった。

そもそもアメリカのオステオパスは創始者から現代の医師に至るまで、みんなオステオパシーやその臨床を理論立てようと苦労してきている。それに、もし経験がすべてなのであれば、例えば30年の経験がある先輩に追いつくには30年かかることになる。私はそれほど気が長くない。

私は経験不足を補うために理論をひたすら勉強し、上手くいったこともいかなかったことも、なぜそうなったのかを考え続けた。それが今の自分の基盤になっていると思う。

しかし今になってみると、経験の大切さというものがよくわかる。「理屈なんてどうでもいいんだよ」とは思わないが、言葉による学習には限界がある。それが上記の暗黙知の部分である。本による独学、指導者についてもらっての実習、そして臨床での実践の積み重ねが最も効果的で効率的な学習だと思う。どれが欠けても上手くいかないだろう。

ちなみに、嫁さんに関しては、胸椎だけの治療で上手くいかなかったら、夕食の消化が落ち着いてからちゃんと治療するつもりであった。本当である。

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ここに書かれていることは一人のオステオパスの個人的見解であり、オステオパシーの標準的な考えとは限りません。批判や意見は大歓迎です。

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